■現場でのカメラワークに奮闘
公園の明かりの下で、ギターを弾きながら歌うさとう。さん。その周りを、前後左右へと動き回りながら、撮影を行っていたのは、イマガワハルネさん。今回はメインカメラの担当で、講師が横についてアドバイスをしながら撮っていきます。
「カット!」「はい、カット!」と声が響き渡り、ワンシーンの撮影が終了。
カメラを持つイマガワさんにとっても、このような動きが多いMVの撮影は初めての経験だそう。「ギターのアップを中心に撮ってしまい、顔があまり撮れませんでした…。」「『ああ、やばい!顔のアップが撮れていない』って途中で気づいたのですが、その加減が分からなかったんです」
「次は2カメ(サブカメラ)でいきましょうか!」と声がかかります。
サブカメラを担当するのはオマタさん。「引きのポジションで固定気味に撮ろうかな、と思っています」
「2カメは光の線が入っているし、明るさが違うね! 2カメの位置、センスいいね!」という声が聞こえてきましたが、「僕が位置を教えたんだよ」と講師。まだ1年生の段階なので、今のところは、現場での経験が豊富な講師のアドバイスが必須のようです。
とはいえ、試行錯誤をしながら、ほかの場所からの撮影にチャレンジしようと試みるオマタさん。講師から「その位置は無理だよ」と言われつつも、アーティストの正面の離れた場所からもトライしていました。
MVの撮影中はさとう。さんが実際に歌いながらも、ノートパソコンからスピーカーを介して楽曲を流していました。これは「リップシンク」といい、後から音楽を被せる手法なのだそう。
動きが多いうえに、慣れないメインカメラの撮影で、少しばかり自信を失ってしまったイマガワさんでしたが、「ハルネちゃん、準備できたら教えてね!」と講師の声が響きます。そして、この楽曲のサビとアウトロの撮影へと移ります。
サビの部分はイマガワさんがカメラを持ったまま、ゆっくりと後ずさりをしながら、撮影をしていきます。
そしてアウトロとなる「ネバーランドより愛を込めて~♪」という歌詞を歌い終えた瞬間にさとう。さんに空を眺めてもらい、その様子をカメラが後追いする大事なシーンへ。
モニターを持って、後ろから見守るのは、今回の監督を務めるタカハシさん。
1回目の撮影では、「(背景よりも)ちょっと地面の比率が多くなっていますね。」と、これではOKを出せないという様子で、もう一度撮影にトライ。
「私が『上を見てください』と言ったら、カメラも上を向けてくださいね!」と再び指示を出し、2回目、3回目と撮影をトライします。
監督のタカハシさんも「ハルネちゃんは練習のときは、めっちゃうまかったので、ポテンシャルはあるはず!」「だんだんうまくなってきているよ」と、イマガワさんに声かけをします。
4回目の撮影では「いいよ、いいよ!めっちゃ綺麗に映っているよ!」と声をかけていたタカハシさんでしたが、講師に「本音はNGでしょ?」と尋ねられると、「はい」と答えます。
「さとう。さんも何度もやって疲れてきているから、こだわるなら情熱を伝えて!」と講師のアドバイスに、監督を務めるタカハシさんが声をかけに行きます。現場での制作は技術だけでなく、出演者への気遣いや配慮も求められます。
メインカメラを担当するイマガワさんに対しては「カメラは手振れ補正がかかっているから、上を向けるときも滑らかなほうが嬉しいです」と話すなど、いろいろな注文をしながら撮影を進めていきます。
MVの撮影にあたり、さとう。さんのヘアメイクを担当したのは、ウエノアオさん。
ウエノさんは、メディアヘアメイク専攻に在籍しており、応募して採用されたことから、映像専攻のチームと一緒に参加したそうです。
「今回はアーティストさんはメイクをしてきていただいているので、直しとチークをやりました。カットが入ったときにモデルさんのケアを中心にやっています」とウエノさん。
■技術面だけでない、現場での実習だから分かること
現場では照明担当も活躍。中野森講師と話していたのは、照明担当の3人のメンバー。公園の丘の上にある遊具を照らす役割です。
屋外での長時間の撮影となると、照明のバッテリーの残量まで考え、節約をしながら撮影をする必要があります。
5分明かりを照らすだけで、10%ほどの残量を使ってしまうことから、照明は要所のみに限る必要があります。このように技術面だけではなく、実際の現場に出てみることで、分かることもあるようです。
このように、本来なら公園の明かりだけでは暗くて見えない、青い遊具も強い照明の力でカメラに映し出されます。監督のタカハシさん曰く、「丘はネバーランドのように思えて、青い遊具は天の川や流れ星をイメージしました」とのことでした。
■制作には裏方の役割も大切
そして今回の撮影には準備にも大きな手間がかかっており、プロデューサーやカメラ技師、美術、照明など6人ほどで構成されたメインチームが担当。ロケハンや公園使用の許可取りなどのために何度も現場を訪れたそうです。
プロデューサーを担当したシカマさんによると、「カメラと制作側の視点は異なりますし、監督の撮りたい絵を撮るために、プロデューサーとして監督としっかりコミュニケーションがとれていないとズレが生じてしまいます」とのこと。
■撮影は佳境へ
夜の撮影ということもあり、撮影には明るいレンズを中心に使用していましたが、今回は「チルトシフトレンズ」という特殊なレンズも登場しました。
これはカメラの位置を変えることなく、傾けたり、ずらしたりして撮影できるレンズで、ミニチュア風の写真を撮るときに使われます。
「楽曲に合わせて、子ども心でミニチュアっぽく映し出したい」という意図があったようで、実際にモニターを見てみると、靄がかかったような演出ができました。
「結構いい絵なので、このあたりを長めに撮ってみたら?」と講師のアドバイスもあり、最後のシーンも入念に…。
夜9時を過ぎたところで、「オールアップです!」と声がかかり、すべての撮影が完了。メンバーたちがアーティストの周りに集まってきました。そこで、みんなの拍手が夜の公園に響き渡ります。
アーティストのさとう。さんにインタビューしてみると、「みなさんが期待以上に、『こうしたほうが良い絵になる』などと提案してくださったので、やりやすかったです。」「自分の楽曲に寄り添っていろいろと考えていただき、本気で向き合ってくれました。」とコメントしてくださいました。
そして監督を務めたタカハシさんにインタビュー。
「監督は死ぬほど楽しいです。全責任は自分にあるけれど、自分の欲望を叶えてもらうことが監督の仕事でもあるので…。今、撮影を終えてみて、高揚感と幸福感があります。」
最後にはさとう。さんと、チームのメンバーたちとで記念撮影。
メンバーたちは4年制の1年生なので、チーム制作を通して、さまざまな役割を学ぶことにより、多角的な視点が得られたはずです。編集を経て一体どんなMVに仕上がるか、楽しみですね!