メイクアップアーティストNATSUKA×ファッションフォトグラファーHIROSHI KUTOMIに学ぶ。 自分の名刺となる「クリエイティブ」のつくりかた
グレーのバック紙の前に、黒いベルベットのヘッドピースをのせたモデルが立っています。ストロボが光るたび、メイクアップアーティスト・NATSUKAさんが「いいね!」と声をかけ、作品とモニターを交互にチェックします。
8月29日、校舎スタジオは、ファッション広告の撮影現場となりました。周りを囲むのは、バンタンデザイン研究所のヘアメイク、フォト、映像専攻のメンバーたち。カメラを構えるのは、ファッションフォトグラファーのHIROSHI KUTOMIさんです。撮影のあとに2人が語ったのは、25年前のロンドンでのアシスタント時代から現在にいたるまでに培った「自分とは」を語る作品たち、そしてクリエイティブにかける思いでした。

1.静けさの中に潜む強さ。「QUIET INTENSITY」を撮る
作品のテーマは「QUIET INTENSITY(クワイエット インテンシティ)」で、掲げたコンセプトは「静けさの中で、感情が造形になる」。白い肌、無表情、抑えた色彩で「QUIET」を、強いブラックの目元、鋭い視線、そして造形の力で「INTENSITY」を表現します。その造形美に立体感を添えるのが、黒いベルベット生地のヘッドピースです。「『SCULPTURAL BLACK FLOWER』をテーマに制作しました。ベルベットの中に針金が入っているので、自在に形を変えられるんです」とヘアアーティスト・MASAMI TAKAGIさん。


NATSUKAさん「静かな美しさの中に芯のある強さや感情を感じられる作品を目指しました。光と影とか、正反対の要素が意識的にすごく好きで。ミニマルなヘアメイクとライティングを重ねて、静けさの中にある強さを表現したかったんです」
ファッションフォトグラファー・HIROSHI KUTOMIさん「ライティング自体は非常にシンプルですが、人物が際立つように見せたいという意図があります。背景はグレーにして、人物の右下のほうからふわっと光がまわり陰影がつくグラデーションをつくりたかったんです。強さを出すためにハイコントラスト気味にして、しっかりとシャドーが出るように撮影しました」



2.経済が停滞すると、ナチュラルなメイクが流行する
NATSUKAさん「今回はスモーキーアイでメイクをしたんですが、目元が強いときは必ずほかは引く。例えば主張のある赤リップなら目元は静かにする、みたいなバランスはすごく意識しています。今回も、“昔のスモーキー”じゃなくて、いまの時代の空気感にハマるスモーキーアイにブラッシュアップしています。基本的には『私のメイクはこれです』と言えるアーティストとしての軸を強く持っている。皆さんにもそれを見せたかったんです」

また、経済とトレンドは密接に結びついていると言い、「いま、すごくナチュラルなものが流行っています。経済が落ち込んでくると、ファッションもヘアメイクも写真も、世の中全体がどんどん静かになっていく傾向があります。でも、私自身のブランディングとして、どんなに世の中が静かになろうと私のメイクスタイルは変えません。そこは強く意識してメイクしています」と続けます。
3.25年前、アシスタント時代にロンドンで出会った
2人はともに、ロンドンで活動していました。NATSUKAさんはメイクアップアーティストのヴァル・ガーランド、KUTOMIさんは写真家のニック・ナイトのアシスタントを務めていました。「同じ現場にいてもアシスタント同士だから話せない。お互い日本人だなと思いながら(笑)」とKUTOMIさん。帰国後に再会し、ともに仕事をするようになりました。
イベント後半は、2人のロンドン時代のエピソードをうかがいました。NATSUKAさんが25年前に撮った作品を見せながら語ったのは、「DIOR」の撮影現場でのエピソード。
NATSUKAさん「師匠に『時間があるから、デザイナー・ジョン・ガリアーノの肩もみをして』と言われて、これはチャンスだ!と(笑)。つたない英語で話していたら、『お礼に、君のブックを見てあげる』と言ってくれたんです。学生のときにつくった作品を見せたら、『君はここからブレなくていい』と背中を押してくれたことをいまでも覚えています」
帰国後につくり直したポートフォリオも持参。『Harper’s BAZAAR』の表紙や「Van Cleef & Arpels」の広告のページを繰りながら、「テイストは変わっていないでしょう」と笑いました。

4.新人こそ、プリントの作品集「ブック」を持つことが重要
KUTOMIさんも「仕事は、人の紹介でまず会いに行くところから始まります。みんな忙しいから『インスタを教えて』となるけれど、ブックは『対話したいね』というきっかけになるし、実際のプリントで見るほうがずっと印象に残る。だから新人のフォトグラファーには、プリントした作品集を持つことが、すごく重要だと伝えたいです」と語ります。

――駆け出しのころ、作品を一緒につくる仲間をどう見つけたのでしょうか?
KUTOMIさん「ロンドンのモデルエージェンシーに、つたない英語で『モデルのテストシュートをさせてくれないか?』とかたっぱしから連絡しました。撮影したいヘアメイクの人が大勢いて、紹介してくれたりしましたね」
5.「誰にも負けないものを、何かひとつ見つけて」
――自分の『好き』や『自分はこれです』というものを、どう確立したのでしょうか?
NATSUKAさん「師匠の影響は大きいです。技術は、『見て盗め』。どんなに迷走してもやっぱり原点に戻る、絶対にブレません。プロになって『あ、これが私なんだな』と意識しました。だからメンバーたちには『これだけは誰にも負けない、誰よりもうまい』というものをひとつ見つけなさい、と伝えています。単にメイクアップして撮影をして、『楽しいね』だけではプロではありません。技術でお金をいただけて、はじめてプロフェッショナル。そこを目指してほしいです」
KUTOMIさん「多くの作品を見て、自分自身でたくさん撮っていくと、毎回落ち着く方向ができてきます。それは、やっぱり自分でやってみないと出てこないんです。いいと思った人のまねから始めて、いろんなことにトライしていくと、つくっていく中でだんだん自分ができあがってくると思います」
最後にNATSUKAさんは「学んでいるうちにテストシュートができるのは、バンタンデザイン研究所に通っている強みだと思います。ここにいるメンバー同士Instagramを交換して!」と、交流をうながしました。

【PROFILE】
メイクアップアーティスト・NATSUKA(AVGVST所属)
美容師を経て24歳で渡英。ロンドンでメイクアップアーティスト、ヴァル・ガーランドのアシスタントを務め、バーやカフェで出会ったフォトグラファーと作品づくりを重ねる。5年間の活動ののち30歳で帰国。ファッション誌、『Harper’s BAZAAR』の表紙、Van Cleef & Arpels、広告、アーティストのツアーなどで活躍。バンタンデザイン研究所 ヘアメイク講師も務める。
ファッションフォトグラファー・HIROSHI KUTOMI(No.2 Ltd.所属)
日本で5年弱のアシスタントを経て1996年に渡英。語学学校に通いながら空きを待ち、写真家ニック・ナイトのアシスタントを約2年務めたのち独立。『i-D』『THE FACE』『Dazed & Confused』などのエディトリアルを手がけ、『Dazed & Confused』ではセント・マーチンズ時代に知り合ったリカルド・ティッシ(当時「Givenchy」クリエイティブ・ディレクター)と撮影を行う。ビューティーを中心に広告撮影を多数手がける。
▼HIROSHI KUTOMI 公式サイト(No.2 Ltd.)
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